
トップインタビュー
トップインタビュー
世界に通じる美濃焼の技術力
地場産業である東濃地域の窯業について、現状をどう考えていらっしゃいますか。
東濃地域で作られている美濃焼は、安価で品質がよく、普段使いの器やタイル等建設用の資材として活用されてきました。世界にも類を見ないほどに分業制が敷かれ、原料、釉薬、絵付、焼成などの各工程に専門メーカーが存在しています。こうした体制により、安定的な大量生産が可能でした。
しかし、中国の陶磁器の台頭によって、美濃焼の地位は脅かされます。安価な中国の焼き物は、すぐに国内に浸透していきました。この流れの中で1990年代以降、東濃地域の窯業は衰退し、現在の出荷額はピーク時(1989年から1991年頃)の1/3に減少しました。
一方で長年の歴史の中で培われた技術力や生産体制を武器に、海外に打って出るという戦略は今でも有効かもしれません。実際にハイブランドが、東濃地域のメーカーが作る磁器の白さに惚れ込んで、OEM生産を委託した例もあります。現在は円安の追い風もあるので、海外への販売も十分に可能性があると思います。なお笠原(多治見市笠原町)には、世界ナンバーワンの原料メーカーがあります。こうした地場のメーカーに育ててもらって、現在の当社があります。
一品一様のモノづくりへビジネスを転換
地場産業の変遷の中で、中工精機も歴史を重ねてきましたが、現在に至るターニングポイントはどこでしたか。
バブル経済の崩壊後です。それまでは笠原地区でのタイル生産などを背景に、当社は大量生産に向けた製品開発や製造販売を行ってきました。しかしバブルがはじけて産業構造が変化し、さらに中国などの外国製品が台頭し、地元の産業も勢い を 失う中 で 、そ れまで のビジネス で は 生き残 っていけないと考えました。そこで当社は「こういうものが欲しい」というリクエストに応える、一品一様のモノづくりを進めていきました。
営業は展示会やWEBに張り付いて、これまで取引のなかった分野の企業からの声にも応えます。来るもの拒まずの精神で、リサイクルや二次電池など、思いもよらない業界から引き合いをいただくようになりました。お付き合いをする業界・製品が変わると求められる仕様や品質も変わるので、新しい基準をクリアするために、当社工場で顧客の立会試験なども実施するようになりました。
こうした奮闘の時期に、現在の場所に無借金で本社を移転できたことも大きな弾みとなりました。タイミングや資金、事業展開などを見ても、本当に運良く新たなスタートを切ることができたと思います。自分は運が良いと信じていますし、会社にもその運が成功を運んできてくれると確信しています。
先端技術と健康経営で高い付加価値を生み出したい
一品一様のモノづくりの中で、会社の強みを生かせていると思いますか。
当社の特徴であり強みは、一気通貫でお客さまの声に応えられることだと思います。設計はもちろん、溶接や組立、据付から試験まで全て社内で対応でき、お客さまの要望にとことん寄り添う体制があります。大型機械とそれを扱う技術があることもメリットでしょう。岐阜・愛知では他にない規模の大型部品加工ができるので、設計の自由度も高いですし、加工作業の受託も可能です。
一方で課題はありますか。
一品一様であるがために、どうしても手間がかかり、スピードが遅くなりがちです。また少なからず不具合も発生してしまいます。こうした課題を乗り越えるために、従業員のスキルアップや知識・経験の共有を進め、多能工的な働きができる人材を育成していきたいですね。
今後の展望について教えてください。
問い合わせが非常に多く、イギリスに出向いたり、インドからの視察に対応したり、大きな手応えを感じます。海外への積極的な展開も含めて、高付加価値の商品群をさらに開発していきたいです。また特許の取得なども進めて、粉砕機メーカーの中でも独自の地位を築きたいと思います。こうしたチャレンジングな開発や製造には、高度な知見や技能が必要とされます。技術伝承や知識やノウハウの共有、さらなる人材育成を行う一方で、必要な作業のロボット化や全自動化についても、真面目に検討する時期が来ていると思います。どの産業においても人手不足が深刻となる中、当社にとっても全自動化が必須条件となる日は近いでしょう。そのために必要となる人材採用や育成という面では、当社が近年進めている健康経営の姿勢も変わらずに貫いていきたいですね。従業員の健康を増進するために、会社としてできることは少なくないはずです。労働災害の予防などはもちろんですが、普段の食事や運動、休憩に至るまで、企業として手助けできることはたくさんあります。従業員を大切にする姿勢が伝われば、望んで入社してくれる人も増えるのではないでしょうか。たとえば口コミと紹介がまだまだ根強いこの地域で、実際に紹介によって4名が入社してくれたので、効果は出ていると感じます。人を大切にし、人を育む環境があってこそ、良いモノづくりができると信じています。次の100年を見据えて、当社は自分達の強みをとことんまで磨き、人を大切にしながら、新たな市場を開拓していきます。私自身は世代交代も視野に入れながら、中工精機のDNAを次代へ引き継げるようもうしばらく奮闘するつもりです。
インタビューを終えて
お話を伺って、東濃地域の中に世界があるような、また、世界の中に東濃地域が広がっているような、不思議な印象を覚えました。どちらも正しいのだと思います。中工精機にとって、大変だけれどわくわくする未来は、もう既に始まっているのでしょうね。本日はありがとうございました。